昨年12月21日のことであるが,私の研究課題を日本学術振興会 (Japan Society for the Promotion of Science; JSPS) の「若手研究者海外挑戦プログラム (以下,本プログラム)」に採択していただいた。
あわてん坊のサンタクロースからのプレゼントである。
この記事では,留学に行こうと思った経緯や,本プログラムの申請書を作成するにあたり注意したことをまとめる。
若手研究者海外挑戦プログラムとは
2016年度からはじまったわりかし新しいプログラムである。JSPSの概要には,
海外という新たな環境へ挑戦し、3か月~1年程度海外の研究者と共同して研究に従事する機会を提供することを通じて、将来国際的な活躍が期待できる豊かな経験を持ち合わせた優秀な博士後期課程学生等の育成に寄与します。
と記載されている。採択されると,
(1) 往復航空賃(日本国内の移動分は除く。)
(2) 滞在費(派遣国によって異なる。派遣期間に依らず1件当たり100~140万円)
(3) 研究活動費(派遣先機関の請求書に基づきベンチフィーを支給。上限20万円)
を支援してもらえる。
もちろん,辞退した場合や不正行為・研究倫理に反する行為 (そんなことする人はいないと信じたいが) は全額返還しなければらなない。
採択率は2016年度42.4%,2017年度53.5%,2018年度第1回41.9%と特別別研究員 (DC1,DC2,PD,RPD) の採択率 (15–25%) と比較するとかなり高い。
若手研究者が留学を考えているのであれば応募するべきだろう。
留学を決めたキッカケ
- 国際学会こそこれまでに3度行ったことがあるものの留学経験はない。社会に出てしまうと仕事で海外に行くことはあっても,留学できる機会はほとんどなくなってしまうだろう。せっかく博士課程に進んだのだから,学生のうちにしかできないことをやっておきたかった。
- 最先端の施設とポスドクが集中している機関で研究をすれば,重厚なデータを取れることは間違いない。自分のラボの技術だけでは,どうしても研究の幅が限られてしまう。
- 自分のラボとは違うスタイルで研究を進めるラボで過ごすことは刺激になる。海外からみた日本,という文化についても客観的な視野を持っておきたい。
- やれインターナショナルだの,やれグローバルだの叫ばれているこのご時世,「留学経験あり」と履歴書に書けるのは今後プラスに働くだろう,という下心もあった。
要するに,「今しかできない」「トップジャーナルからアクセプトされるような質の高いデータが欲しい」「今後のため」が留学の動機である。
受入研究室の選定
本プログラムの申請時までに,受入研究室のPIから承認をもらわなければならない。
私は所属ラボのOBが留学へ行っていたラボを選んだ。
研究分野が近いこと,
大学の施設が整っていること,
顔見知りであること,
と条件はかなり恵まれていた。
また,受入研究室のPIがサバティカルで日本に数ヶ月来ていたため,これまでの成果と研究計画を直接プレゼンする機会を設けてもらった。
どこの馬の骨だかもわからないような極東の学生を受け入れる,となるとラボによっては断られることもあるだろう。
二つ返事で受け入れを承認してくださったので,ラボ選びには全く苦労しなかった。
OB様様,感謝である。
申請書作成にあたり注意したこと
本プログラムに申請するにあたり,私はとんでもないミスを犯していた。
JSPSの締め切りの1週間以上前に学内締め切りが設定されていたのだが,これを完全に忘れていた。
さぁ申請書を書き始めるか,と思ったときには学内締め切りは過ぎていた。
JSPSへは個人単位で申請するのではなく,大学が一括して申請するのである。
顔面蒼白,心臓の鼓動が身体中に響き渡った。
大学の事務が申請書に不備がないか (内容ではなく体裁) をチェックするために,学内締め切りが設けられているので,JSPSへ申請するまでには猶予期間がある。
藁にもすがる思いで担当者へ問い合わせたところ,数日なら待ってやる,と回答をいただいた。その節は大変ご迷惑をおかけいたしました…。
DC1の申請書は2ヶ月以上かけて作成したが,今回与えられた時間は数日。睡眠時間と命を削って申請書を作成した。自業自得である。
さて,DCの申請書と本プログラムの申請書の大きな違いは分量である。
DC | 若手研究者海外挑戦プログラム | ||
2019年度1回目 | 2019年度2回目 | ||
現在までの研究状況 | 1.5 | 1 | 1 |
研究業績 | 1 | 1 | |
研究背景 | 0.5 | 1 | 1 |
研究目的・内容 | 1 | ||
研究の特色・独創的な点 | 0.5 | ||
年次計画 | 1 | ||
外国で研究することの意義 | 1 | ||
自己評価 | 1 |
※単位はページ
現在までの研究状況,今後の研究の背景・目的・内容・アピールポイント・計画を書く分量が激減したため,いらない情報を削るのに苦労した。
図を入れたら文章を書くスペースなくね?,と絶望した。
2019年度分第2回の申請書は1回目よりもさらに分量が少なくなっている。
紙面スペースが狭いということは,研究をアピールすることが難しいことを意味する。
10秒で自己PRしてください,と面接で言われたら焦るだろう。
自分の名前と所属+αでタイムオーバーだ。
それくらいハードルが高いことを要求されていると思ったほうがいい。
さて,締め切りをすぎて窮地に追い込まれた私は,DC1の申請書をベースに本プログラムの申請書を作成した。
2つの申請書の相同性は50%くらい。
下記にDC1の申請書との相違点を述べる。
- DC1に書いていた「現在までの研究状況」の内容に優先順位をつけ,背景・問題点・成果を少しずつ削っていった。特色と独創的な点は重要なアピールポイントだと思ったので,言い回しは少し変えたが分量はDC1から変えなかった。
- これまでの成果から示唆された仮説を「現在までの研究状況」に図で示し,今後の研究へ繋がる伏線を張った。図表の数はDC1では4つだったが,今回は1つだけにした。
- 「派遣先における研究計画」では,同じ学科の教授陣が読んでも理解できるように専門用語はほとんど使わずにわかりやすさを重視した。また,自分だからこそ遂行できる研究内容であること,夢のある結果が得られること,を誇張しすぎない範囲でロジカルにアピールした。DC1申請書からパワーワードを抜き出し,余計な情報は排除した。
「派遣先機関の研究との関連性」「派遣先で研究する必要性や意義」はDC1になかった項目である。
- 関連性については,受入ラボの研究内容を紹介し,同業者かつ世界トップレベルであることを述べた。また,サバティカルで日本にいらっしゃっているときにプレゼンを聞いていただき,共同研究を進める上での基盤は整っていることをアピールした。
- 留学する必要性・意義については,施設と人的資源が優れているため研究を遂行する上で魅力的であること,共同研究によって当該分野の研究にシナジーが生まれさらに研究が発展することを書いた。
DC1のときは,ボス,ポスドク,ラボの先輩,専門外の友人 (理系),専門外の友人 (文系) と合計7人に読んでもらってアドバイスをいただいた。
今回はそんな時間はなく,直属の指導者に1度確認してもらっただけである。
より採択率が低いDC1が通っていたので,それをベースに書いた今回の申請書も採択されるだろう,いや採択されて欲しい,採択してくださいお願いします,という気持ちで数日遅れて事務へ提出した。
結果,採用されたのでホッとした。
不採用でも留学は行くつもりだったのだが,援助があるとないとでは留学先での生活は大きく変わってくる。
ちなみに,優秀 (DC1)・研究留学経験2回あり・高身長とハイスペックなラボの先輩は残念ながら不採用だった。
応募資格に「連続して3か月以上、研究のために海外に滞在した経験がない者」とあるため,もしかしたら3ヶ月未満でも留学経験があるとマイナスに働くのかもしれない。
あくまで憶測だが。
2019年度分2回目の公募がはじまった。
申請書の締め切りは2019年5月17日 (金) 17:00である。
学内締め切りはもっと早いはずなので,私の二の舞にならないように注意してほしい。
応募者全員の健闘を祈る。
採択された場合,2019年8月頃から最長2020年3月31日まで留学にいける。
特別研究員の申請書を書く上で気をつけることがまとまっている記事がこちら。
私がDC1へ応募するときには書かれていなかった…かなり参考になる。
若手研究者海外挑戦プログラムの申請書を書く上でも,この記事で述べられていることは意識すべきである。
若手研究者交流事業は採択率が60%以上!
特別研究員として採択されていることが前提になってしまうが,若手研究者海外挑戦プログラムではなく "若手研究者交流事業" でも海外へ留学するための援助をしてもらえる。
ただし留学先はスイスかインドに限定されいる。
スイスの場合,派遣期間は3ヶ月から6ヶ月間,往復航空費と滞在費 (約271,000円/月),
インドの場合,派遣期間は14日から6ヶ月間,往復航空費と滞在費 (約79,500円/月),宿泊施設,
が支援される。
驚くべきはその採択率だ。
特別研究員でなければ申請資格がなく留学先も限定的ではあるが,若手研究者海外挑戦プログラムよりもはるかに採択率が高い。
もし留学したいラボがスイスかインドにあれば申請しない手はないだろう。