Goro's blog

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小惑星探査機はやぶさ2と微生物研究の共通点

201921日 (金) 放送のNHK総合「チコちゃんに叱られる!」で,チコちゃんはゲストの玉木宏にこう問いかけた。

 

チコちゃん「(小惑星探査機) はやぶさ2 (Hayabusa2) は何しに宇宙に行ったの?」

 

私も考えた。アポロ計画のように表面の石を回収をするのかと予測したが,その目的がわからない。

 

玉木宏の回答は「宇宙ゴミの回収」。

 

チコちゃん「ボーッと生きてんじゃねーよ!!」

「どこに捨てるの?何曜日に出すの?木曜日?」とさらにツッコむチコちゃん。

 

正解は

地球の生命誕生の起源を調べるため

である。

 

 

 

 

 

はやぶさ2があるってことは1があった

200359ITOKAWA (イトカワ)へ向けて打ち上げられたはやぶさは,イトカワ表面の微粒子を持ち帰った。

はやぶさ計画で回収されたサンプルは様々な分析にかけられ,その結果は超一流科学誌Science」に6編の論文として発表された。

スゴすぎる

JAXA|米科学誌「サイエンス」における「はやぶさ」特別編集号の発行について

 

初代はやぶさの感動ストーリーは「はやぶさ/HAYABUSA」というタイトルで映画になっていたらしい。

 

はやぶさ2の目的

2014123に打ち上げられ,打ち上げから約4年後の2018627Ryugu (リュウグウ) に到着した。

リュウグウとは火星と木星の間にある小惑星帯に位置する小惑星1つである。

小惑星帯では木星の強い引力によって引き寄せられ,惑星になれなかった太陽系初期に形成された小惑星が集中している。

つまり,小惑星帯に位置する小惑星の原材料物質は,太陽系が生まれたときの組成を反映しているといえる。

リュウグウ表面の試料を持ち帰って分析すれば,原始太陽系星雲に含まれていた物質がどのようなものであったか調べることができる。

それら物質は生命の原材料でもあるため,リュウグウの試料を持ち帰って分析をすれば生命誕生の秘密に迫ることができる,というわけだ。

 

小惑星まで行って試料を採取するわけ

水星,金星,火星,地球といった「地球型惑星」は岩石や金属を多く含む直径数 kmほどの小天体 (微惑星) が集積されてできたと考えられている。

この微惑星の衝突によって地球はドロドロに溶けてしまったので,地球ができたばかりの原材料は残っていない。

わざわざ小惑星まで取りに行かなくても…と思うが,地球が形成される過程で一度燃え尽きているため,そこらへんの石を分析にかけても意味がないのである。

 

地球上で生まれた初めの生命体とは

地球上に最初に誕生した生物は動植物のような高等生物ではなく微生物であった。

微生物誕生に必須な物質は,生体成分の元になるアミノ酸有機物である。

アミノ酸有機物が生成されるまでのステップにはいくつかあるとされている。

  1. 原始地球では水素やメタン,二酸化炭素といった無機物であふれていたが,雷の放電によるエネルギーで化学反応が進み,簡単な化合物が生成された。
  2. 簡単な化合物同士が結合し,アミノ酸ヌクレオチド,炭水化物といった有機化合物が生成された。
  3. 有機化合物は重合しあって,タンパク質や核酸,脂質などの高分子化合物が生成された。

この考えは化学進化説として広く支持されている。

しかし,もしリュウグウから有機物が見つかったら,これまでの常識を大きく覆すことになるだろう。

 

はやぶさ2と微生物研究の共通点

微生物研究を研究することで生命の起源に迫ることができる。

前述したように,微生物の誕生は生命の誕生といえるからである。

現在,微生物は深海の熱水噴出孔付近で誕生したという仮説が有力である。

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熱水噴出孔

(cited by 熱水噴出孔 - Wikiwand )

 

熱水噴出孔ではエネルギー産生に必要な酸化還元反応を仲介する金属イオンが析出しており,熱水中は水素やメタン,二酸化炭素が含まれる嫌気的 (酸素がほとんどない) 環境である*1

また,これら無機物が化学反応するために必要なエネルギー源としての熱も十分ある。

これらの理由から熱水噴出孔周辺で微生物が誕生したとされている。

ここに生息している微生物について研究することは生命誕生の謎を解決する糸口になるかもしれない。

 

2018年,生命誕生の謎を解明する鍵となる始原微生物の代謝に関する研究成果が海洋研究開発機構 (JAMSTEC) から報告された。

Science誌から出版されており,そのデータの質と量は圧巻である。

www.jamstec.go.jp

 

最初に生まれた始原微生物は無機物をエネルギー源としていたのか,有機物をエネルギー源としていたのか,議論は決着がつかないでいた。

 

90ºCの熱水が吹き上げられる海底の現場で微生物を培養し,その試料の中から始原性微生物Thermosulfidibacter takaiiが単離された (Nunoura et al., 2008, Int J Syst Evol Microbiol.)。

今回,Thermosulfidibacter takaiiの生物の設計図であるゲノムを解析したところ,二酸化炭素から有機物を作るために必要なクエン酸リアーゼという酵素を欠損していることがわかった。

しかし,他に同様の反応を担う酵素をコードする遺伝子はゲノム上保存に保存されていなかった。

そこで,二酸化炭素がどのようにして細胞内で代謝されるのか調査したところ,クエン酸シンターゼというクエン酸リアーゼと逆の反応を触媒する酵素が,二酸化炭素から有機物も作っていることがわかった。

 

これは,草食動物と信じられていたキリンが,実はゴリゴリの肉食系だった,くらいの発見に値する。

 

Thermosulfidibacter takaiiは無機物も有機物もどちらも使える「二刀流選手」だったのだ。

この研究によって,始原微生物は二刀流 (専門用語で混合栄養) であった可能性が示唆された。

 

このように,深海に生息する始原微生物を研究することで,はやぶさ2同様に生命誕生の起源に迫ることができる。

 

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*1:生命誕生には嫌気環境が適していると考えられている