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アカデミアか?民間企業へ就職か?–バイオ系博士学生が企業研究者を選んだ5つの理由–

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2020年5月,バイオ系博士課程3年目のGoro (@BioDr_goro) です。

博士課程に在籍する学生であれば,アカデミア (大学・研究機関) への就職か,民間企業への就職かで迷うことがあると思います。

私は修士卒として理系職を狙っていたので,元々アカデミア志向ではありません。
当時は「博士課程は大変そう」 「卒業後に就職が難しそう」といった負のイメージが強く,博士進学やアカデミアの世界に魅力を感じていませんでした。

詳細は修士卒で就職か,博士進学かを迷った経緯を綴った記事に書いてあります。

lpasteur.hatenablog.com

今もアカデミア志向ではありませんが,その理由は修士のときと違います。

修士1年のときから国際学会と国内学会に毎年参加し,
研究はつまずきつつも論文になっており,
学振DC1に採択されたためそれなりの水準で生活できており,
海外で研究経験を半年間積み,
指導教員や後輩たちにも恵まれ…

良い環境で博士課程を謳歌しているため不満はありません。
博士進学したからこそ見えてきたアカデミアの魅力と産業界への憧れを天秤にかけ,企業研究者を目指して就活しました。
そして,専門性が活かせる企業の研究開発職に就くことになりました。

アカデミアの魅力

アカデミアの魅力は修士では気がつけませんでした。
「サイエンスとは何か?」を考え,学術的な研究の楽しみを知らなかったからです。
まだまだひよっこですが,研究者として一人立ちするための訓練を受けて,アカデミア研究のやりがいに触れることができました。
私が考えるアカデミア研究のやりがいとは以下の4つです。

1. オンリーワンになれる

アカデミアでは特別なオンリーワンになれるチャンスがゴロゴロころがっています。
トレース実験でもない限り,唯一無二の研究を遂行できます。
そして,世界初となる実験や解析結果を最初に見ることができます。
研究が好きであれば,自分しか知らない現象を目の前にしたときにワクワクするのではないでしょうか。
世の中の真理を解き明かしたときに得られる快感は,何物にも代えがたいです。

2. 生きた証を残せる

この世からいなくなっても,自分の名前は世の中に残り続けます。
アカデミア研究者であれば,論文や特許,アカデミア機関や新聞のプレスリリースなどに自分の名前が載るからです。
自分が書いた論文が時代を超え,「引用」という形で学術界に貢献し続けられれば,研究者冥利に尽きます。

3. 努力と成果が比例する

努力の方向性を間違わなければ,やったらやった分だけ成果を挙げられます。
成果は組織ではなく個人に帰属するため,どれだけ成果を挙げたのか,どれだけインパクトのある研究ができているのか,を実感できます。

4. (限られた条件の中で) 自由に研究できる

知的好奇心を満たせる研究を納得できるまで突き詰められるのは,営利団体である民間企業では無理ではないでしょうか。
ビジネスになるような研究テーマに面白さを見出せれば問題はありませんが,利益にならない研究は民間企業ではできません。
アカデミアでも,申請書の内容から大きく外れたテーマで実験できない,研究費が少ないと高額な試薬は購入できない,といった制限はありますが,研究の自由度はアカデミアに軍配が上がります。

企業研究者を選んだ5つの理由

企業研究者として働いている博士のお話を伺い,博士卒は修士卒以上に裁量権を与えてもらって研究できている印象を受けました。
先輩方のエピソードも踏まえ,民間企業の研究職へ憧れた理由を5つ述べます。

1. 社会に役立つ研究ができる

私が企業研究者を目指した一番の理由です。
博士課程で取り組んでいるテーマは基礎研究なので,直接的に社会に還元できるような結果は3年では得られません。
どうしたら社会に波及効果を与えられるかは日頃考えていますが,机上の空論になってしまいます。

「学術界には爪痕を残せるものの,国の税金を使って知的好奇心を満たし続けてもいいのか?」
と考えるようになりました。
アカデミア研究を否定する気は全くありません。
アカデミア研究でも,工学,医学よりであれば,アウトプットははっきりしていると思います。
また,アカデミア研究がなければ,企業での応用研究・開発研究は成り立ちません。

ただ私は,基礎研究に従事したことで社会課題 (環境問題および健康問題) を解決できる研究・技術開発がしたいと考えるようになりました。

2. ビジネスを学びたい

顧客が求めているモノやサービスは何か?市場のニーズを満たすために必要な技術は何か?世の中ではどのようにお金が動いているのか?
と,ビジネスの世界に興味を持ちました
ビジネスセンスを磨くのであれば,営利企業に所属することが一番だと考えました。

なぜビジネスを学びたいと思うようになったのか,明確なキッカケはありません。
昔からお金は好きでした。

3. 民間企業での研究でもやりがいは見出せる

アカデミアでも研究費の用途が決まっていたり,研究費が獲得できずにやりたい研究ができないリスクはあります。
一方で,民間企業での研究で考えられるリスクとして,会社都合による突然の人事異動や,研究テーマのペンディングが挙げられます。

しかし私が成し遂げたいことは,科学の力で社会課題を解決することなので,企業の経営方針が180°変わらない限りは,企業での研究も楽しめると思っています。

研究だけではなく開発や事業戦略にも従事し,研究もできるビジネスマンになりたいので,企業研究者を目指しました。

4. 配属ガチャのリスクが低い

化学メーカーに就職した博士の先輩は,「博士の余った枠を修士で埋めている印象がある」とおっしゃっていました。
修士卒と比較したら博士卒の方が部署を選びやすいのかもしれません。
興味のある事業に携われる確率が高いのであれば,モチベーションを高く保ちながら企業での研究に従事できると思いました。

もちろん,博士だからといって好きな研究だけをできるとは限りません。
あくまで配属ガチャの「リスク」が低いだけです。

5. 収入はポスドクよりも企業研究者の方が高い傾向がある

金はなぁ…命より重いんだっ……!

お金は大事です。

半年間の留学期間中,学振DC1の20万に加え若手研究者海外挑戦プログラムの140万円が支給されました。
1ヶ月あたりに使える額は40万円を超えています。
趣味にお金を費やしても不自由なく生活ができると,どれだけQOLが上がるのかを知ってしまいました。

一般的にはポスドクよりも民間企業の方が収入が高くと言われています。
助教,講師,准教授,教授と順調にステップアップすれば,メーカーで働くよりも収入があるかもしれません。
しかし,私には順風満帆なアカデミアライフを送れる送れる自身はありませんでした。

ちなみにJAXA理化学研究所産業技術総合研究所のような研究機関であればポスドクの給与は大学と比較するとかなり高いです。
JAXAポスドクであれば,博士号取得直後でも平均年収は570万円のようです。

www.jaxa.jp

倍率は非常に高いと思いますが。

民間企業へ就職するなら事前準備は必要

バイオ系でバックグラウンドを活かしつつ企業研究者を目指す場合,就職先は製薬・化学・食品・日用品メーカーあたりになると思います。
大手・準大手の製薬メーカーと化学メーカーは,博士2年の秋には博士早期採用を始めるので注意が必要です。

私は博士2年の冬まで留学に行っていたため,ほとんどの早期採用枠を受けることができませんでした。
ESが通過した3社だけ留学直後に面接を受けましたが,準備不足だったので散々たる内容でした。当然お祈りです。
早期採用枠で内々定を獲得するにしろ,学部・修士生と一緒に就活するにしろ,2ヶ月くらい前には準備をしておかないと苦労します。

最終的には納得した形で就活を終えられましたが,反省点はたくさんあります。
私が犯したミスや改善点は後日まとめます。

最後に

私が博士課程を修了した後に民間企業に就職するのは,
アカデミアに残りたくないから,というネガティブな理由ではなく,
やりたいことが民間企業でやりやすいから,というポジティブな理由です。
アカデミアに嫌気が差したわけではありません。
もしかしたら今後,人生の軸が変わってアカデミアに戻りたいと思っているかもしれません。

キャリアに正解はありませんし,自分が選んだ道を正解にするしかありません。
私の考えが少しでも参考になれば幸いです。

参考になる記事

アカデミアか,民間企業への就職か,で迷っていた博士学生の記事。
tabe-phdcareer.com

ocoshite.me

アカデミアか就職かの一方に絞らない,というキャリアを選んだ方の記事。
https://www.pr-table.com/acaric/stories/1087www.pr-table.com