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博士課程進学における3つのリスクと対策【卒業・お金・就職】

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バイオ系博士学生のGoro (@BioDr_goro) です。

この記事はこんな方にお勧め

  • 博士課程に興味はあるけど,「なんだか危なそう」という漠然とした不安を持っている
  • どんな人が博士課程進学に向いているのか気になる

修士1年生のとき,私は修士卒として卒業するつもりでした。
しかし,教授,博士卒OB,友人,家族…と様々な方と話をし,博士課程進学を決意しました。
www.biodr-goro.com


では,博士課程進学にはどんなリスクがあるのでしょうか?
リスクがなかったら,もっと多くの学生が博士号取得を目指すはずです。

多くの修士学生が考える博士課程進学に対するリスクは,3つに分解できると考えました。


博士課程進学に対するリスク

  • 博士号を取得できないリスク
  • 経済的に困窮するリスク
  • 就職できないリスク



博士号を取得できないリスク

ほとんどの場合,大学院の単位取得と論文の出版 (受理) を終えていなければ,博士論文審査会を受けることすらできません。
博士号を取得するためのスタートラインにすら立てないのです。

単位取得は簡単ですが,問題は論文です。
「テーマを考え,実験してデータを取得し,英語でロジックを組み立て,査読を経て論文が受理される」プロセスはなかなか骨が折れる作業です。
論文執筆が簡単だったら,修士卒でも全員論文を書いています。

論文が書けないと博士号を取得できない,これが1つ目のリスクです。

では,どのようなタイプが博士課程に進学しても結果を残せるのでしょうか?

博士課程進学に向いていると感じる学生に共通する資質

  • 研究が好き (最重要)
  • 向上心がある
  • 主体的に行動できる
  • ネガティブな結果に対して打たれ強い

何も考えずモラトリアムで博士課程に進学すると,卒業まで漕ぎ着けられない可能性があります。
逆に,研究に対して前向きな姿勢を持ち続けられる学生は,"研究環境が悪くなければ" 博士課程中退や単位取得満期退学にはならないはずです。

博士号取得に欠かせないもう1つの要因は研究環境

  • 教授が人格者である
  • 他の学生との関係が良好である

指導教官との相性は非常に大事です。
私の指導教官は,学生思いで面倒見がいい,やりたいことは基本的に自由にやらせてくれる,たまには砕けた話もできる,という人格者です。
「この人の元で研鑽を積みたい!」と思えないと,博士課程は非常に辛い時間になってしまうと思います。

指導教官とそりが合わないと感じたら,思い切って研究室を変えるのも1つの解決策だと思います。
ただし,研究テーマは変わってしまうので,研究を軌道に乗せるまでに時間はかかることを覚悟してください。

また指導教官だけではなく,研究室の学生との関係も重要です。
博士学生になると後輩を指導する機会が増えるでしょう。
もし後輩がコントロールできないと研究室の治安が乱れ,自分のパフォーマンスに悪影響が及ぼされます。
後輩を野放しにするのも,厳しくしすぎて亀裂を生むのも良くありません。

研究室の後輩全員と意思疎通しようとするとオーバーワークになってしまうので,せめて自分のテーマと近い後輩とはコミュニケーションを取るようにしましょう。

経済的に困窮するリスク

私の場合,両親がお金の心配はしなくていいと後押ししてくれましたが,全ての家庭が博士課程進学に前向きとは限らないと思います。

2つめのリスクはお金がなくて学費や生活費が捻出できないことです。

幸い,私は月20万円×3年を返済不要でいただける「日本学術振興会 特別研究員DC1」に採択されたので,経済面での心配はありませんでした。
www.biodr-goro.com


さらに,留学資金として140万円を「若手研究者海外挑戦プログラム」で獲得したので,お金には不自由なく暮らせました。
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特別研究員DCには5人に1人しか採択されないので,最初から過度に期待することはお勧めできません。
経済的なリスクは分散させておきましょう。
例えば,他の奨学金に応募してみてもいいと思います。

返済不要の給付型奨学金がまとめられた記事はこちらです。
kenkyustyle.blogspot.com


もし,両親は応援してくれているのに,「これ以上負担をかけたくないから就職する」のであれば,もう一度考え直して欲しです。
私自身,DCに採択されなかったら20代後半にもなって親のスネを齧らなければいけないのか,と後ろめたく感じたことがあります。
しかし,成し遂げたい夢があって博士課程進学を選ぶのであれば,応援してくれる気持ちを無下にしなくてもいいのではないでしょうか?
博士課程在学中でも恩に報いることは可能ですし,親孝行は卒業してからでも遅くないと思います。

給付型の奨学金やTA・RAとしての収入を狙いつつ,返還型の奨学金や両親の支援も視野に入れて,金銭面での不安を払拭できるようにしましょう。
お金に余裕があると,心にも余裕ができます。

就職できないリスク

  • 博士課程をやっていけるだけの精神力がある
  • 研究を楽しめる環境が整っている
  • 経済的な不安がない

上記が揃って博士号が取得できそうだとしても,卒業後の進路が心配になると思います。

3つめのリスクは博士課程まで卒業したのに就職先がないことです。

文部科学省の学校基本調査によると,2019年度では博士課程卒業者のうち「就職も進学もしていない者」が17.3%もいます。
一方,修士課程卒業者における「就職も進学もしていない者」は9.4%です。
学校基本調査-結果の概要:文部科学省

これらの数値だけを比較すると,博士課程に進学すると就職できないと思うかもしれません。

では,特別研究員 DCに採択された博士学生の進路はどうでしょうか?
日本学術振興会の就職状況調査結果によると,「無職等」は1.0%です。
就職状況調査 | 特別研究員|日本学術振興会

しかし,あまり数字だけに踊らされないでください。
少なくとも,私が所属する研究室の博士卒でアカデミアのポジションを得ることもできず,民間企業への就職もできなかった先輩はいません。
私も,学部・修士学生と同じタイミングで就職活動を始め,無事に研究開発職の内々定を得ることができました。

確かに,生命科学や農学といった,「バイオ系」と呼ばれる分野の博士は民間企業への就職が難しいと言われています。
他の理系分野と比較すると,需要に対して供給は多いからです。
しかし,博士課程を乗り切れるほどの能力があり,準備を怠らなければ就職はできると思います。


準備とは,自分を知り (自己分析),業界を知り (業界研究),企業を知る (企業研究) ことです。

準備とは,自分を知り (自己分析),業界を知り (業界研究),企業を知る (企業研究) ことです。

大事なことなので2回言いました。


博士号を持っている (取得見込みがある) から,就活が有利に働くことはありません。
博士号はあくまで肩書きです。

博士課程で学んだのは専門知識や技術のような「ハードスキル」だけではないはずです。
後輩を指導する力や共同研究者をコミュニケーションをとる力,課題発見・解決能力,論理的思考能力,文章力,プレゼン力,のような「ソフトスキル」も伸ばせているはずです。
ソフトスキルは就職の分野に関わらず,重宝される汎用性が高いスキルです。

「どんな経験をして,どんな行動をとったから,どんなソフトスキルが身についたのか,それはどのように企業で活かせるのか」というフレームワークでアピールできれば,選考を突破できるようになります。
自分をアピールするために,自己分析・業界研究・企業研究は必須です。

ちなみに,留学に行ったから就活が有利になることもありませんでした。
上述したように,留学のキッカケ,具体的なエピソード,学んだこと,就職後の活かし方,を言語化しないと評価はされませんでした。


なお,博士号を取得したからといって,研究職以外の道が閉ざされるわけではありません。
『博士号を取る時に考えること 取った後できること
生命科学を学んだ人の人生設計–』という本では,

ビジネス・コンサルティングの世界では,Ph.D. (Doctor of Phylosophy,博士号を意味する) はそのバックグラウンドの分野を問わず,経営学修士等の専門職学位と同等に評価される. Ph.D.ホルダーは,知的生産活動を行うのに必要な一定の素養とスキルを身につけているプロフェッショナルと広くみなされているためである. 筆者の経験でも,コンサルティングのプロジェクトと研究のプロジェクトの間には,取り組み姿勢や分析アプローチなどの運用面で共通点は非常に多い. 多少の専門的知識や経験を補えば,サイエンスのPh.D.取得を通じて培われたスキルや根性は,そのままビジネスの世界にも転用可能である。

と記載されています。

研究を続けない道を選んだとしても,博士号は役立つようです。
専門性に拘るのではなく,博士課程で培ってきた汎用性が高いソフトスキルをアピールすれば,民間企業への就職も困難ではないはずです。

まとめ

この記事では,私なりに博士課程に進学することの3つのリスクと対策をまとめました。
しかし,ハイリスク・ノーリターンというわけではありません。

博士課程のメリット・得られること

  • 好きな研究を好きなだけ続けられる
  • 自分の成果は生きた証として世の中に残る
  • 「科学の発展に貢献できている」という実感を抱ける
  • 多くのハードスキル・ソフトスキル (詳細は上述) を磨ける
  • 博士号は研究者であることを証明するグローバルな免許になる

etc...

能力があり,環境に恵まれている修士学生にとって,博士課程進学における3つのリスクは無視できます。
そのような方々には,むしろ博士課程に進学し,研鑽をさらに積んで欲しいとさえ思います。


この記事が,博士課程進学を迷っている修士学生の役に少しでもお役に立てたら幸いです。
博士課程に関するご質問は,「お問い合わせフォーム」もしくはTwitterのDM (@BioDr_goro) で受け付けています。


私が博士課程進学を決めた経緯をまとめた記事も,合わせて読んでもらえると幸いです。
www.biodr-goro.com