毎週欠かさず観ているNHK「チコちゃんに叱られる!」。
以前,本ブログでははやぶさ2は「何しに宇宙に行ったのか?」というテーマの放送を取り上げたことがある。
2019年6月7日放送の1つめのチコちゃんからの質問は,
「なぜみんな焼肉が好き?」
テストの打ち上げ,誕生日,特別なデート…
何かのイベントで焼肉をチョイスしておけば外れはない。
先週の日曜,私の留学送別会でも食べたのは焼肉だった。
焼肉が嫌いな人はほとんどいないだろう。
そんな焼肉が好まれる理由は,
「科学的にも『幸せだな〜』と感じるから」
解説は,食と健康について研究している浜松医科大学 名誉教授 高田明和先生。
焼肉を食べて幸せだと感じるのは気のせいではなく,科学的な根拠があるとのこと。
焼肉には食べると私たちを幸せにする3つの物質
①アラキドン酸
②アナンダマイド
が含まれている。
①アラキドン酸
アラキドン酸は体内で合成することができない必須脂肪酸なので,食べ物から摂取する必要がある。
アラキドン酸は野菜や果物には含まれていない一方,肉には多く含まれている。
肉のアラキドン酸が舌の受容体に触れると,神経を介して脳の快感中枢が刺激される。
そのため,人は肉を食べた瞬間に幸せを感じる。
②アナンダマイド
アラキドン酸の一部が体内に吸収され脳内に入っていくと,アラキドン酸とエタノールアミンが反応してアナンダマイドが産生される。
アナンダマイドは快感中枢細胞表面に位置するCB1に結合して快感中枢細胞を刺激するため,より「幸せだな〜」と感じる。
我々は肉を食べた直度にはアラキドン酸によって,食べてから数十分後にはアナンダマイドによって幸せを感じている。
アラキドン酸は赤みの細胞の外側に存在しており,脂肪にはほとんど含まれていない。
そのため,脂肪が多いサーロインよりも赤身,特に鶏の胸肉を食べることでアラキドン酸を効率よく摂取できる。
重量100 gあたりに対するアラキドン酸の量は
・鶏(胸肉):67 mg
・牛(サーロイン):25 mg
・豚(赤身):46 mg
・マグロ(赤身):16 mg
となっている。
出典:日本食品標準成分表2015年版 (七訂)
鶏肉よりも脂の乗った牛肉の方が美味しいとは思うのは,脂肪が旨味を与えているからである。
肉に含まれるアミノ酸「トリプトファン」は脳内に入ると幸せホルモン「セロトニン」に変化する。
トリプトファンが脳内に入るためにはブドウ糖と結合する必要がある。
つまり,焼肉のお供にはブドウ糖であるご飯も一緒に,というスタイルが理にかなっているわけだ。
細胞生物学や生化学,生理学を学部時代に習っていた身としては,アラキドン酸(脂肪酸),トリプトファン(アミノ酸),セロトニン(ホルモン)は馴染み深いワードだった。
ここからはチコちゃんは関係ない小話。
脳内のセロトニンが不足するとうつ病になることが知られている。
脳内セロトニン濃度を上昇させるため,うつ病患者には細胞によるセロトニンの再取り込みを選択的に阻害する薬が処方されている。
なぜセロトニンを直接摂取しないかというと,血液脳関門によってセロトニンは脳内へ直接入ることができないからだ。
安直な考えだが,トリプトファンとブドウ糖を配合させたチョコを,「ストレス社会を生きるあなたに!」と銘打っておけば売れるのではないか?
抑制性の神経伝達物質であるGABA(γ-アミノ酪酸)が配合されたチョコが販売されているが,GABAも血液脳関門を通過することはできない。
GABA含有チョコを食べたからといって,「安心」や「幸福」を感じることができるとは信じがたい。
ただし,GABAが腸内細菌を刺激することはある。
腸は第二の脳ともいわれており,腸と脳は双方向的に関連している。
最近,Nature Microbiologyでうつ病関連の興味深い論文が発表された。
あるGABAを産生するBacteroidesとよばれる腸内細菌の存在率と,うつ病に関連した脳のサインに負の相関があるようだ。
腸内細菌叢を制御することで病気を予防あるいは治療する,そんな未来が訪れる日がそう遠くないだろう。